賃料増額請求権

この記事は、東京で、事務所等を借りており、家主から賃料の増額を請求されている会社及び個人に向けて書いています。

最近、借りている物件について、家主(といっても必ずしも個人でなく、会社・ファンドの場合も多いです)より、賃料の増額を請求されているという相談が増えています。
その背景は、ここ数年、少なくとも23区内では、新規賃料(新たに借りる場合の賃料)が上昇していること、他方、今後の経緯、賃借物件の供給を考えた場合、賃料が上昇を続けるとは考えづらく、賃貸人の側からすると、今、賃料を上げないと上げる機会がないと考えられることなどがあります。

このような相談を受けていて、驚くのは、増額を請求されると、ある程度応じなければならないと考えられる方が多いことです。
しかし、そんなことはありません。

もともと、賃貸借契約も契約ですので、決まった賃料の金額は変更しないのが原則です。
ただ、建物の賃貸借の場合、借地借家法等により、賃借人は賃料をきちんと支払い続ければ、10年以上、さらにはもっと長期間にわたっても賃借することができます。

しかし、この長期間に、税金その他の負担、土地や建物の価格の上昇、近隣の同種の建物の賃料に比べ「不相当」に高くなったり、低くなったりすることがあります。
このような場合のため、借地借家法は、第32条で、建物の賃料の減額請求権、及び、増額請求権を認めています。

現時点で問題となるのは、大家さんによる賃料増額請求に対する対応であることから、この記事では、賃料増額請求権に絞って、その内容を記載していきたいと思います。

まず、このような賃料の増減が争いになった場合のプロセスとしては、
① 交渉
② 調停
③ 訴訟
の三段階になります。

②調停と記載しましたが、賃料増額請求の場合は、訴訟を提起する前に調停を申し立てなければならないとされています(民事調停法24条の2第1項)。
事件の性質上、調停をすることが適当でないとされる場合が例外的にありますが(双方が判決を求めて調停を強く拒否し調停の成立が見込めない場合等)、ほとんどの場合は、調停を行わなければなりません。

これを調停前置主義といい、例えば、離婚訴訟の場合も、同じようになっています。
これは、婚姻と同様、不動産の賃貸借も、長期間の関係であることが多く、当事者間の特別な事情が多く介在しているため、判決では当事者間のどちらかに不満が残ることもあり、調停による円満解決をはかることが、今後も継続する賃貸借関係の円滑化につながると考えられることによります。

では、どのような場合、現行賃料が「不相当」とされるのでしょうか。
その前に、この場合、現行賃料が比較され不相当とされる基準となる賃料が、「新規賃料(正規賃料)」、つまり、「新しく不動産に入居する際の賃料」ではなく、「継続賃料」、つまり、不動産の賃貸借等の継続に係わる特定の当事者間において成立するであろう経済価格を適正に表示する賃料」であることが重要です。
新規賃料は、新規に入居する際の賃料ですので、その金額は、当事者間で、自由に決められます。継続家賃は、既に賃貸借契約を締結した特定の当事者間において、適正と考えられる賃料で、最終的には、「不動産鑑定評価基準」の「継続賃料の評価方法」等を参考に判断されることになります。

多くの場合、家賃の増額を求める大家さんは、近隣の新規賃料の増額を理由としていますが、これは、法律的には根拠となりません。

では、現行賃料が不相当と判断されるのは、どのような場合でしょうか。現行賃料が不相当とされるためには、2つの条件を満たす必要があるとされています。

まず、第1の条件は、「前回の賃料の改定時から相当の期間が経過していること」が必要です。
前に記載したとおり、賃料増額等請求権の根拠は、賃貸借契約が長期に渡り、約定した賃料が不相当になった場合、修正する必要があるからです。
前回の賃料の改定時から、少ししか時間が経っていない場合には、本来の契約の原則のとおり、約定賃料で問題がありません。

「相当の期間」が、どの程度かは、戦後の時期やバブル時期等物価が急激に上昇している時期等であれば短くなりますし、逆であれば長くなるなど明確には言えませんが、少なくとも、5年以上の長期賃貸借の場合でなく、通常の2~3年の賃貸借期間の場合であれば、最初の更新の時点では、「相当期間が経過」していると認められることはなく、賃料増額請求権は認められないでしょう。
ただ、大家さんの側からは、最初の更新時期に、値上げを求められることも多いのが実情ですが、その要求を受け入れなければならないわけではありません。

第2の条件は、借地借家法32条1項に定められたもので、家賃が不相当とは、①対象不動産に対する公租公課の増減、②対象不動産の価格の高低その他の経済事情の変動、③近傍同種の(継続)賃料等と比較して、不相当になることとしています。
ただし、①~③は、例であり、要は、当事者間の具体的諸事情を総合的に判断して、従前の賃料で契約を継続することが妥当かどうかで、判断されることになります。

なお、家賃の増額をしないという約束がある場合、その約束が長期にわたり、その約束を守ることが公平ではないと考えられる場合以外は、増額が認められないことはもちろんです。

賃貸人である大家さんから、賃料の増額を請求された場合、以上を参考に交渉してみるのがいいと思います。
また、交渉に自信がないなら、むしろ、相手方の請求を断り、相手方が調停を申し立てたならば、出席して、話し合うということでもよいと思います。
調停では、間に調停委員2名が入ってくれますし、東京の場合であれば、その1名が不動産鑑定士であることが普通で、事実上の意見等も聞くことができる場合も多いです。
納得ができれば、受け入れればよいと思います。
費用的には、賃貸人の申立であれば申立費用はかからず、調停では、鑑定はほとんどしませんので、調停自体としては、お金はかかりません。

どちらにせよ、大家さんから家賃の増額の請求がきた場合は、弁護士に相談だけでもすることをお勧めします。

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